スタートアップ企業・ベンチャー企業を中心に多く活用されているストックオプションですが、近時、従来活用されてきた無償あるいは有償ストックオプションとは別の新しいモデルとして、信託型ストックオプションが注目されています。
その中でも、コタエル信託株式会社が提供する時価発行新株予約権信託と、オプションプール型信託の2つが注目されます。とりわけ、オプションプール信託は、2022年9月12日にプレスリリースされたものであり、様々新しいスキームが登場しているところです。
参考:発行会社の資金拠出で導入可能な新たなタイプの信託型ストックオプション「オプションプール信託™」のリリースを決定|コタエル信託株式会社 PRTIMES
この記事では、信託型ストックオプションについて、その概要とともに最近リリースされたオプションプール信託も含めた3つの形態と仕組み、ほかの種類との比較なども交えたメリット・デメリット、実際に導入する際の注意点や活用事例まで解説していきます。
信託型ストックオプションとは
信託型ストックオプションとは何かについて、ストックオプションの意義や分類もみつつ、概説していきます。
そもそもストックオプションとは何か
ストックオプションとは、「一定期間においてあらかじめ設定された金額で株式を購入することができる権利のこと」をいいます。法的には、新株予約権の枠組みで用いられるものの1つです。「株式」を発行するのではなく、「株式を取得する権利」を発行(潜在的な株式発行)することが特徴です。
また、ストックオプションは、特に役員や従業員などに対し付与するものとして整理されるとともに、通常の新株予約権と同様に権利行使時の資金投下があるため、エクイティファイナンスとしての機能もあります。
ストックオプションの種類
ストックオプションは、一般に次のような大きく3つの分類があります(名称に関しては様々なものがあるので、ここで掲載するものはあくまで一例です)。
- 無償ストックオプション
- 有償ストックオプション
- 信託型ストックオプション
そして、信託型ストックオプションには、2014年にコタエル信託株式会社がリリースした第三者拠出型の新株予約権信託、そして、すでにご紹介したように同社が今年2022年9月12日にリリースした発行会社拠出型の新株予約権信託の2種類があります。
表として整理すると、次の通りです。

信託型ストックオプションの概要と位置づけ
前掲の表のように、信託型ストックオプションは、これまで用いられてきた無償あるいは有償ストックオプションの形態とは異なる新たな形態として位置づけられます。
すなわち、信託型ストックオプションとは、端的には、会社から発行されるストックオプションを信託の仕組みを介して被付与者である役員、従業員等に交付する方法のことです。
信託型ストックオプションが台頭した背景
信託型ストックオプションが広く用いられるようになってきた背景には、より付与されるべき人にストックオプションの割り当てを確保し、逆に結果へのコミットメントがない従業員等にはストックオプションの付与対象としないようにしたいというニーズがありました。
また、個別的かつ定量的に被付与者の評価をストックオプションの取得量に反映する方法が待たれていました。
従来の無償ストックオプションや有償ストックオプションのスキームでは、個別の従業員ごとに契約を行うのは煩雑であり手間なので、一定の属性ごとにまとめてストックオプションを付与するところまでは対応可能でしたが、これでは上記のようなニーズへの解決策として十分ではありませんでした。
さらに、そうした実情から、ストックオプションの付与対象者も、ある程度会社内で勤続しているような社員になる傾向にあり、採用に当たってのメリットとして提示するには決め手を欠いていました。
そこで、個々の社員ごとに、また新入社員でも同じ基準で会社の業績向上への成果度合いを反映させインセンティブを与えることができる信託型ストックオプションに注目が集まるようになったと考えられます。
信託型ストックオプションの仕組み
信託型ストックオプションは、次のようなスキームを内容として発行されるストックオプションです。
- 資金拠出者である委託者が、発行価額を、信託を受ける受託者に対し払込む
- 受託者は発行会社に対し、時価相当の現金を払込む
- 発行会社は、受託者から払込みを受けて受託者に対し払込金額相当のストックオプションを割り当てる
- 会社は信託契約上の受益者に当たるストックオプションの被付与者・役員や従業員等にポイントを付与していく
- 信託期間満了時、受託者は、発行会社から被付与者に付与されたポイントに応じてストックオプションを付与する
参照:塩野誠/宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』第2版316頁
なお、委託者は、通常は創業者などのオーナー、CEOです。また、受託者になるのは、顧問税理士のほか、管理信託会社です。
信託型ストックオプション導入の流れ
信託型ストックオプションにおいて、信託契約から被付与者に対する付与、ないし譲渡までの流れはどのようになっているのでしょうか。ここでは、従来型の時価発行新株予約権信託の場合について説明します。
信託契約の締結
オーナー・CEOと受託者たる顧問弁護士や信託会社との間で、ストックオプションの発行対象者である役員、従業員等を受益者として(厳密には一定の基準に従い会社からポイントを付与された役員、従業員等を受益者として)信託契約を締結します。
この信託契約の際に、信託法にかかるルールが適用されるほか、ストックオプションの付与対象者の属性、受益者の確定時期などの交付条件を定めます。
オーナーが受託者に対し新株予約権の発行価額を払い込み、それを原資に受託者が会社に発行価額を払い込む
新株予約権の発行形態に関しては、有償ストックオプションを基礎とするため、割当てを受ける受託者が発行価額の払い込みを行い、ストックオプションの付与を受ける必要があります。もっとも、原資を中間者である受託者が立て替えると複雑な問題が生じます。
そこで、オーナーがストックオプションの発行原資を拠出することになります。
なお、オーナーが原資を拠出して、それを受託者がそのまま払い込むと見せ金のような形にならないかとも思えますが、あくまでオーナーに拠出分がすぐに返還されるようなものではないので、見せ金の問題は生じません。
会社で新株予約権の発行・割当について決議
会社法上の定めに従い、新株予約権の募集・割当事項について株主総会あるいは取締役会決議を行う必要があります。
受託者に対する新株予約権の割当て
会社における発行手続が完了した後、受託者に対し新株予約権の割当てが行われます。特徴的なのは、最終的な割当て先である受益者・従業員等は具体的に確定していないことです。
役員や従業員等へのポイント付与
信託期間満了時点まで、一定の基準に従い、ストックオプションの潜在的な付与者である役員、従業員等に対してポイントが付与されます。このポイント数が、ストックオプションの付与を受けるための交換可能な価値になります。
そのため、一定の基準は、業績向上への貢献度、人事評価の達成具合などによって定められるものです。会社によって異なります。
信託期間満了→ポイントに応じた信託受益権付与
信託期間が満了すると、付与されたポイントが集計された上、ポイント数に応じた信託受益権が付与されます。これにより、受益者たる役員、従業員等は、ストックオプションの付与を受けます。
被付与者の権利行使による株式取得→売却した場合はキャピタルゲイン
その後、被付与者は、権利行使により株式を取得することができます。さらにその後株式を売却することによりキャピタルゲインを得ることができます。
従来のストックオプションとの比較
ここで、従来のストックオプションとの仕組みや内容の違いを比較しつつ分析していきます。
なお、ここでも、通常の第三者拠出型の信託型ストックオプションを念頭に置きつつ整理しています(以下、特に記述がない限り同じ。)。
| 無償ストックオプション | 有償ストックオプション | 信託型ストックオプション | |
|---|---|---|---|
| 導入時の検討事項 | 対象者の範囲、付与個数、税制適格、株式報酬型、行使条件 など | 対象者の範囲、付与個数、発行価額、無償(税制適格SO)との併用、行使条件など | 行使条件、発行数量、なおポイント付与に関する基準設定も |
| 企業側のコスパ | 発行の都度費用かかる | 発行の工数は基本的に1度で足りる(※1) | |
| 付与時および行使時課税に関する取扱い | 税制適格:いずれも非課税 非税制適格:行使時課税あり | いずれも非課税 | いずれも非課税 |
| 譲渡所得課税 | あり | ||
| 会計上の処理(※2) →非上場企業の場合 | 税制適格であれば、費用計上なし | 払込金額を貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」の項目で計上。 | 業績条件等が確定しない限り株式報酬費用の計上なし。 |
| 退職時に関する取り扱い | 維持または消滅 | 別の者に付与できる | |
| 対象者の後決め可否 | × | 〇 | |
| 対象者の個別性 | ポジション、役職までであれば条件設定可能だが、個々人ごとの付与を後決め× | 〇 | |
| 非上場企業での導入可否 | 〇 |
- ※1年度中の報酬として処理工数が発生する場合もある。
- ※2上場企業の場合は、費用計上の必要あり。
信託型ストックオプションのメリット・デメリット
上記の従来型ストックオプションとの比較も踏まえると、信託型ストックオプションのメリット・デメリットは、次の通り整理することができます。
メリット
| 具体的な内容 | 誰のメリットか |
| 付与対象者を後決めできる | 発行会社 |
| 退職者には付与せずその分別の社員に付与可能→役員、従業員側としてもストックオプションの取得を放棄して転職などが可能 | 発行会社、被付与者 |
| 信託型ストックオプションを活用した成果報酬により、通常の成果報酬の場合と比べて人件費削減効果あり | 発行会社 |
| 個々人の成果に応じて相対的にストックオプションの付与を行うことができる | 発行会社、被付与者 |
| 税制適格の場合と同様に、キャピタルゲイン時点での一括課税 | 被付与者 |
デメリット
| 具体的な内容 | 誰のデメリットか |
| 委託者であるオーナーなどに発行原資にかかる金銭的負担がある | 委託者(発行会社のオーナー、CEOなど) |
| 受託者に対して支払う手数料や報酬にかかるコスト | 発行会社? |
| 人事評価制度やストックオプションの付与を判断するための基準・ガイドラインの策定ができていないと、かえって役員、従業員等の士気が低下するおそれがある | 発行会社 |
信託型ストックオプションを導入する際の注意点3つ
信託型ストックオプションを導入する際、どのような点に注意すべきでしょうか。3つの点について解説していきます。
●発行価額の原資捻出と発行会社拠出型信託の検討
第三者拠出型の場合、オーナーの資金力に依存しがちです。また、従業員規模が拡大するほど、原資の捻出も多く必要となります。個人で拠出できる規模にも限界はあります。
このように、原資の捻出は、容易ではありません。
そこで、後述する発行会社拠出型信託の活用も検討しつつ行うことに注意が必要です。
●導入時期とポイント付与の基準の定め方
上記のデメリットでも述べたように、人事評価制度やストックオプション付与のための基準・ガイドラインを策定しなければ、信託型ストックオプションのスキームを効果的に活用することができません。
ポイント付与の基準の具体的な内容も、貢献度を適切に反映した合理的な内容をしっかりと確立できない限り、結果として無駄が生じてしまうおそれもあります。
ゆえに、導入時期や基準の定め方には注意が必要です。
●総合的なコスパを見極める
信託型ストックオプションは、制度設計が極めて魅力的で、スタートアップ企業やベンチャー企業に非常にフィットしやすいモデルであるため、導入を先走りがちです。
しかし、近年導入が高まっているところ、契約書の設計をできるノウハウを有する弁護士や税理士、会計士のほか、証券会社や信託会社などは多くないことから、その分信託費用も少なくないと考えられます。効果的に活用するには、社内での基準策定も行う必要があります。
そのため、従業員規模や資金調達、時価総額のステージなどを考慮し、業績向上・生産性向上について期待できる数値とコストを比較検討して決めていく必要があると考えられます。
信託型ストックオプションの活用事例
信託型ストックオプションの活用事例として、2つご紹介していきます。
KLab株式会社
同社では、2016年3月7日、第三者拠出型の信託型ストックオプションを発行しました。
端的には、CEOの真田氏が個人キャッシュから資金を拠出し、割当先の信託会社との間で信託契約を締結した上、ストックオプションの発行を行うものでした。特徴的なのが、信託期間が異なる3つの信託契約を締結し、1つの信託契約ごとに5000個の新株予約権を割り当てる点です。
これにより、異なる期間において所属する役職員にもストックオプションの恩恵を受けさせることができ、インセンティブを与える効果があると考えられます。
また、同社では、ストックオプションの付与マニュアルを作成しており、これに基づき職責や業績貢献当に応じてポイントを付与するとされ、基準の策定も準備が綿密に行われたものと考えられます。
KLabの例は、第三者拠出型のベースを確立しつつ、信託契約のスキームで幅広くストックオプションの恩恵を与えるものであった例といえます。
株式会社スペースマーケット
株式会社スペースマーケットでは、信託型ストックオプションの導入前に、通常の税制適格ストックオプションが発行されていました。しかし、その発行時期以降に入社した社員はストックオプションの恩恵を得られておらず、インセンティブに不公平感が生じるような状況でした。
そこで、インセンティブをフェアに行うべく導入されたのが、信託型ストックオプションでした。
そして、タイミングは、資金調達におけるシリーズBラウンド時点、そしてシリーズCラウンド時点の2つの時点でした。税制適格ストックオプションの発行を含めると、合計3階のストックオプションを発行しています。
スペースマーケットの例は、通常のストックオプション付与における課題やデメリットがよくわかる点、発行の時期が会社の成長ステージに応じている点で参考になる例と言えます。
新たなタイプの発行会社拠出型信託型ストックオプション
最後に、冒頭でも述べた新しいタイプの信託型ストックオプションとして注目される、発行会社拠出型の信託型ストックオプションについて、若干解説していきます。
発行会社拠出型信託の仕組み
これは、開発したコタエル信託株式会社が商標登録している呼称では「オプションプール信託」といわれるものです。
プレスリリースの内容によれば、次のような仕組みです。
まず、発行会社が、受託先との間で信託契約を締結した上、受託先に対し信託金を拠出します。そして、社内でストックオプションの発行手続を行い、新株予約権の割当てを行います。
これ以降のフローは、第三者拠出型の場合と同様になります。

第三者拠出型信託との違い
文字通り、ストックオプション発行の原資がオーナーなど発行会社以外の第三者ではなく発行会社自身の資金を原資とする発行である点に違いがあります。
第三者拠出型の場合は、CEOの場合のほか資金拠出をしてくれるようなオーナーを探す必要があったり、それには資金力のある上場企業などに掛け合う必要がありましたが、スタートアップ・ベンチャー企業では困難な側面があります。
発行会社型の信託型ストックオプションの場合であれば、自社の資金の範囲で発行可能であることから、導入のしやすさが違います。他にも、3か月おきの柔軟な受益者決定、後見期待値に応じた配分決定、発行会社自身による受益者指定権の活用といったメリットがあります。
まとめ
本記事のポイントを3つ整理したまとめです。
- 信託型ストックオプションは、信託の仕組みを掛け合わせたストックオプションの付与であり、被付与者の後決めを可能にするなど、従来のストックオプションの仕組みにはない画期的なものとして、スタートアップ・ベンチャー企業を中心に活用が広がっている。
- 信託型ストックオプションを導入する際は、資金拠出者、ポイント付与の基準策定など様々な点を考慮しつつ、導入コストも低くないため、総合的に検討していくことが重要である。
- 近時、発行会社拠出型の信託型ストックオプションも開発され、第三者拠出型の課題を克服するものも現れており、今後さらに活用が広がっていく。